マジック・ジョンソンが下した「GOAT論争」への審判:レブロンへの敬意と、ジョーダンが“神”である理由

アスリート名言

1. 時代の目撃者が語る、終わりのない論争への回答

バスケットボール界において、これほどまでに人々を熱狂させ、同時に分断させる問いはない。いわゆる「GOAT(Greatest of All Time=史上最高)」論争だ。現代の「キング」ことレブロン・ジェームズか、あるいは「バスケの神様」マイケル・ジョーダンか。

この終わりのない神学論争に対し、ある一人の男が決定的な「審判」を下した。80年代のNBAを支配し、バスケットボールという競技を芸術の域にまで高めたレジェンド、マジック・ジョンソンその人である。

ある投資系イベントの壇上に立ったマジックは、会場を埋め尽くす若い世代の観客に向け、語り口を整えてこう切り出した。 「Hold up, listen(ちょっと待って、聞いてくれ)。君たちの多くは、まだ生まれてもいなかっただろうけどな」 この言葉は、単なる昔話の導入ではない。それは、ジョーダンという嵐がNBAを塗り替えていく瞬間を、コート上の最前列で目撃し、そして敗れ去った当事者だけが持つ歴史の重みである。マジックがこれから語ることは、単なる数字の比較ではなく、彼が肌で感じた「不可侵の領域」の話なのだ。

2. 「勘違いするな(Don’t get it twisted)」— レブロンへの最大級のストリート・リスペクト

マジックがジョーダンをGOATに指名する際、まず彼が細心の注意を払ったのは、現代のアイコンであるレブロン・ジェームズへの敬意だった。

彼は「Don’t get it twisted」という強いフレーズを用いた。直訳すれば「私の言葉をねじ曲げるな」、つまり「勘違いしないでほしい」という警告だ。マジックはレブロンを語る際、「Bad boy(最高にやばい奴、とてつもない実力者)」というスラングを繰り返した。NBA文化における「Bad boy」は、相手を畏怖させ、屈服させるほど圧倒的な力を持つ者へ贈られる最高級の賛辞である。

マジックの真意は、レブロンを否定することにはない。むしろ、レブロンという、かつてないほど完璧なアスリートを認め、愛しているからこそ、その「キング」ですら到達できない別次元の存在を際立たせようとしているのだ。

3. 1991年、理屈を破壊した「あの瞬間」:ジョーダンが人間を超えた日

マジックがジョーダンを「唯一無二の神」と断じる根拠は、1991年NBAファイナル、ロサンゼルス・レイカーズ対シカゴ・ブルズの第2戦で目撃した「あのプレー」に集約されている。

マジックは当時の絶望的な状況を鮮明に描写する。ジョーダンが右手でボールを掴み、ドライブから高く跳躍した瞬間だ。「We thought we had him(捕まえた、ブロックできると思った)」とマジックは振り返る。レイカーズのディフェンス陣は完璧な包囲網を敷いた。

しかし、重力の支配を逃れたジョーダンは、空中で永遠とも思える時間を過ごした。右から左へとボールを持ち替え、あろうことか「舌も左に出して(The tongue went left)」、ボードに魔法のようなスピンをかけてシュートを沈めたのだ。

マジックは、目の前で起きたこの非現実的な光景をこう締めくくった。 「There is nobody alive that’s been able to do just that.(あんなことができる人間は、今生きている中には他に誰もいない)」 このプレーは、単なる2得点ではない。対戦相手の戦意を挫き、理論や統計を無効化し、マジックに「自分たちは人間と戦っているのではない」と悟らせた、神格化の瞬間だったのだ。

4. 「彼はマイケル・ジョーダンではない」という言葉に込められた真意

スピーチの中でマジックが放った「He is not Michael Jordan(彼はマイケル・ジョーダンではない)」という言葉。これは名簿上の事実を述べているのではない。レブロンという偉大な存在ですら、ジョーダンの領域に踏み入ることは許されないという、冷徹なまでの結論である。

マジックにとって、ジョーダンは比較対象を持つ「選手」ではなく、バスケットボールという概念そのものを象徴する「規格外の種」なのだ。どれほどレブロンが記録を塗り替えようとも、ジョーダンがかつてコートで見せた、見る者の魂を揺さぶる「神がかったプレー」が決定的な境界線となっている。

「彼は“バッドボーイ”だが、それでもマイケル・ジョーダンではない」。この一文には、バスケットボールの神髄を知り尽くしたレジェンドが、かつての宿敵に対して抱く究極の畏敬の念が込められている。

5. 結論:レジェンドがレジェンドを語るということ

自らも史上最高の司令塔と称えられ、一時代を築いたマジック・ジョンソン。その彼が、かつて自らの黄金時代を終わらせた宿敵を、これほどまでに情熱的に、そして神格化して語る。その姿勢こそが、NBAというリーグが持つ文化的な深みであり、美学である。

GOATを決めるのは、勝利数や平均得点といった乾いた数字だけではない。マジックが語ったように、熟練のライバルですら「人間業ではない」と脱帽させ、数十年後の若者たちにまで「聞け、あれは凄かったんだ」と語り継がせる、技術を超えた「何か」なのだ。

マジックにとって、その答えは1991年のあの日、空中を歩いたジョーダンだった。 翻って、あなたにとっての「神」は誰だろうか。記録の先にある、あなたの理屈を破壊した唯一無二のプレーヤーは誰なのか、ぜひ思い返してみてほしい。

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